────最初から、知っていたよ。
何も彼も、全て……という訳じゃなかったけど。
カナタさんが本当は、誰にも見えない心の奥底で、僕に何を望んでいるのか。
望みながら、欲しながら。
それでも、何一つとして、僕に『望み』はしないのも。
そのくせ、僕のことを『溺愛』して、『大切』に想っているのも。
僕、という存在が、カナタさんにとって、『特別』だっていうのも。
ずっとずっと、知ってた。
バナーの村での『分岐点』、あそこで、一歩を踏み出してしまっていた僕には、カナタさんが何も言わなくっても、判ってた。
カナタさんが、僕に求めているモノを。
だから、僕は『望んだ』。
僕に、何一つとして『望めない』、カナタさんの代わりに。
──カナタさんは、傍にいて欲しいって、僕に望んでいるけれど。
それを、僕へと願うことはしないから。
傍にいて下さいって、僕からお願いした。
僕の傍にいて下さいね? 『だから、傍にいますね』……って。
僕の手を、取って下さい。『だから、貴方の手を取らせて下さい』……って。
貴方は僕の、大切な人。
僕に、僕だけのものをくれた、たった一人の人。
歩く時も、立ち止まる時も、走る時も、蹲る時も。
傍にいて、全てを共に、そう言ってくれた、たった一人の人。
貴方の立っている場所に、『僕が』辿り着きたいから。
貴方の、老いること許されない時間を、『僕が』共に、歩きたいから。
…………何も願えないカナタさんに。
僕が、僕自ら、そう望んだ。
──悪くない。
カナタさんは、何にも悪いことなんてしてない。
望んだのは僕。
全てを選び取ったのは僕。
カナタさんは、僕に、あの黄金の都で、『魔法の呪文』を囁いただけ。
カナタさんがしたことは、それだけ。
何も彼も。
百年前のあの頃。
僕が、僕自身の手で掴み、決めたこと、なんだ。
…………でも、ね。
でも…………──。
それでも、僕は。
カナタさんが本当に望む形に辿り着くまで、百年間も、躊躇い続けた。
カナタさんの傍へと辿り着くことは、何一つとして怖くなんかなかった筈なのに。
何時しか僕は、それが『怖く』なった。
……何も彼も、知ってたよね。
僕は、知ってたよね……? そうだよね、『僕』。
カナタさんの『特別』も。
カナタさんの『大切』も。
全て、僕は知っていた。
カナタさんが僕のこと、『ヒト』……とは看做していないことだって。
僕は、カナタさんにとって、只の灯火であり、只のタカラモノなんだって、僕は確かに知ってた。
『ありとあらゆる』意味で以て、愛しているよ、と言うカナタさんのそれが。
嘯きだ、ってことも。
けれど、僕だって、全てをカナタさんに晒した訳じゃないから、お互い様って言うのかも……って。
僕は僕に、言い聞かせて来たから。
これっぽっちも悲しくなんてなくて、何処までも、仲の良い兄弟みたいに、僕はカナタさんに寄り添っていられたのに。
…………先を『急がない』カナタさんに、『甘えて』いたのに。
────何時からだったんだろうね……。
ねえ、それを憶えてる? 『僕』。
もう、何年前かも判らないくらい、遠い遠い昔に。
『唯、それだけで良かった』筈の僕は、何時しか本当に、カナタさんのこと、『愛して』たよね…………。
……ううん。
もしかしたら。
共に、ゆこうね……って。
カナタさんが初めて言ってくれたあの日から、もう。
僕は、僕だけの為に、僕だけの言葉をくれて、僕だけの手を差し伸べてくれるあの人のことを、愛していたのかも知れない。
──だって。
カナタさんの中で、僕がナニモノであろうとも。
僕にとってカナタさんは、僕だけのモノをくれた、たった一人の人であるのは、変わりない事実だから。
……だから、怖かった。
カナタさんの真実望む『形』に、向かってしまうことが。
僕は物凄く、怖かった。
何も彼もを、カナタさんに差し出してしまえば。
僕の全てを、カナタさんに『征服』されてしまえば。
カナタさんにとって、只の灯火でしかない、只のタカラモノでしかない僕は、何時か、『愛してなんかいないよ』…………って。
『本当のコト』を突き付けられる日がやって来るんじゃないか……って。
怖くて、怖くて、仕方なかった。
カナタさんを失ってしまったら、僕はもう、生きてなんていけないから。
唯ひたすらに、僕は。
カナタさんが僕に望んでいる関係──本当だったら、恋人同士である人達の間に生まれるような、『熱』をやり取りする関係、それを望まれているんだって、気付かない振りをし続けた。
…………でも。
僕達が巡り逢って五十年目には接吻を。
百年目には、躰を。
僕は、差し出してしまった。