「僕も悪いと思うんです…………」

シエラの赤い瞳に、怒りが篭り始めたことを、ちらり彼女へと向けた上目遣いで知り。

慌てた風にセツナは、自分にも責はある、と付け加えた。

「何処がじゃ。御主に懸想しておきながら女遊びをするあの者が、全て悪いに決まっておるじゃろうに」

カナタを庇うように言ったセツナに、先程とは違う呆れの色を見せ、シエラは又、酒を煽った。

次いで、セツナのグラスも、ワインで満たし。

「想い合った者同士のいざこざは、両成敗、と言うがの。今御主に事情を聞かされた限りでは、非があるのはカナタの方ぞ?」

浮気者など、庇ってやる必要すらない、と彼女は断じた。

「だけど……ほら、あのね、シエラ様。僕達って……歳を取らないじゃないですか、少なくとも、体の方は」

「ああ。自明の理じゃな」

「だから僕もカナタさんも、シエラ様だって、体だけは未だ、あの頃のまんまじゃないですか」

「御主は中身も、あの頃のままのようじゃがの」

「……茶化さないで下さい……。──だから、ね。カナタさんにだって、人並みに……って言うの、おかしいかも知れませんけど……『そういう欲求』って、ちゃんとあると思うんです。僕達の体、『思春期の男の子』、な訳ですし……。でも……僕、カナタさんのこと、好きで……カナタさんも、僕のこと好きって言ってくれて……キス……とかはするんですけど……ううん、出来るんですけど、かな……。僕……『そういうこと』、カナタさんと出来ないんです……未だ」

「何故? 男同士だから、とか、今更悩んでみても詮無いことを、うじうじと悩んでいる訳ではなかろうの?」

先程と変わらず、瞳に怒りを湛えたままのシエラへセツナが続き語ったことは、彼等二人が真実恋人同士であるなら、例え二人が同性同士であろうとも、交わされていて然るべき営みが、未だに皆無、という告白で。

御主の悩みは、それか? と、シエラは水を向けた。

男同士だからとか、同性がどうのとか、そんなことを思い悩んでみても、埒もない、と。

「いえ、そうじゃなくって…………」

すればセツナは、又、ほろほろと泣き出して。

「どうしていいか……判らないんですっ…………」

自棄になってしまったかのように、ワインを一息に浴びた。

「何を? 何をどうしたらいいのか判らないと、御主は言う?」

「知って……たんです……。僕、知ってたんです、カナタさんが僕のこと好きだって、言葉にするずっと前からっ。カナタさんが僕のこと、『色んな意味』で特別に想ってくれてることっ。でも……それに気付いた頃も、カナタさんのこと、そういう風に、僕自身が好きになった後も、カナタさんに好きって言われた後も、キスするようになってもっ。僕、『怖い』んです……。カナタさんが僕のこと、好きって……愛してるって言ってくれても、カナタさん、何時か僕のこと、愛してなんかないよって言うんじゃないかって、凄く不安でどうしようもなくって、だからどうしても、カナタさんと『そういうこと』出来なくって……。だけど、気が付いたら僕、どうしようもなくカナタさんのことが好きになってて、なのに僕はカナタさんのことが『怖く』って、『そういうこと』出来ないから、カナタさん、女の人の残り香なんて付けて帰って来て……。それが凄く嫌なのに……。でもそれは多分、僕が悪くって…………っ……」

「セツナ…………」

──どうしていいか、判らない。

そう言って泣き濡れる彼に、何故、と問うてみれば、怒濤のように、抱えた想いを涙ながらに訴えられ。

シエラは酷く複雑な表情を湛え、天井を仰いだ。