ベッドや壁を、叩かんばかりの勢いでひとしきり、相方の態度に拗ねまくったセツナに、渾身の力で枕を投げ付けられるまで、笑い続け。

「……御免、僕は唯、君が照れてるだけだと思って……。だから、からかってみたんだけど……」

「もーいーです。もう、カナタさんの言うことになんて、耳貸しませんーーーーっだ。カナタさんなんて、嫌いですーーーーっっ」

「本当、御免ってば。……そう、そんなに痛くて怖かったんだ……。御免、ね……」

未だにこみ上げる笑いが揺れさせる肩を、何とか押さえ込んでカナタは、ベッドの隅に踞りながら、目尻に涙さえ浮かべて拗ねているセツナの、機嫌を取り始めた。

「……恥ずかしい発言、蒸し返さないで下さいっ」

「だって、君がそんな風に思ってたと言うなら、それは僕の責任だから。きちんと話し合って解決しなきゃならないだろう?」

「解決なんて、してくれなくっても、僕は別にいーです」

「どうして?」

「どうしてもですっっ。もう二度と、あんな想いしなきゃいいんですからっっ」

「でもさっきは、もう二度と、じゃなくって、もう当分、あんな想いはしたくないって言ってたよね?」

「…………それは、失言です」

だが、そう簡単に、臍を曲げ切ってしまったセツナの機嫌は戻らず。

「……少しも、気持ち良くなかった?」

不本意そうな顔付きをして、カナタは再び、拗ねて踞り中のセツナを、毛布の上に引き摺り倒した。

「…………そこまでは言いません、けどっ……」

押し倒され、のしかかられ、セツナは目線を目一杯逸らして、もごもごと言う。

「僕はあれでも、精一杯優しくしたつもりなんだけど」

「……多分、別次元ですよ、それとは……。優しくされてるの、僕にだって判りましたけど、それと痛いのは別ですもん……」

「じゃ、痛くも怖くもなければいいんだ。そういうことだよね」

もうこれ以上絶対に、カナタさんの口車には乗らない、という決意を頬に浮かべながらも、そっぽを向き続け、ぶつぶつと言い続けるセツナに。

なら、話は簡単、と。

「へ?」

「仕方ないと思うよ、僕だって。初めての体験、したばかりのセツナの態度が、そんな風になってしまうのは、当たり前なんだろうね。──僕にはそれが、どれ程の辛さなのか判ってはあげられないけれど、でも大丈夫。こういうことって、慣れだって言うから」

にっっっっ……こり、と笑ってカナタは、片割れが有無を言い出すよりも早く、衣擦れの音を立てて、組み伏したセツナの小柄な体に巻き付く、腰帯を解いた。

「え、うわ、駄目ですってばっ! 僕の話聞いてたでしょう? カナタさんっ!」

手慣れた手付きで帯を解かれ、あっという間に上着の襟を寛げられ、青褪めながらセツナは、声高に訴えたけれども。

「うん、聞いてたよ」

「だったらっ!」

「でも僕は、君を抱きたいよ? ……気持ちを、判ってあげられない訳ではないけれど。君を手に入れるまで、百年も掛かったんだ。もう一度、と君が思ってくれるのを、これまでのように唯待っていたら、又何年もが過ぎてしまいそうだから」

「……………でもぅぅぅ……」

「……『君のこと』、何も知らなければ、幾らでも待てるのだろうけれど。知ってしまった以上、もう、そういう訳には、ね……。──何も言わずに、十日も待ったんだよ? セツナ。『健全な青少年』にしては、頑張った方だと思わない?」

セツナの訴えに聞く耳を持たず、カナタは彼に、接吻くちづけをした。

「誰が、健全な青少年ですか……っ」

「僕」

熱いような、そうでないような、ふわりとしたキスが去っても、キッとセツナはカナタを睨み付ける。

すればカナタは、ゆるりと、何時の間にか手袋を剥ぎ捨てた素手で、セツナの瞳を覆って。

「カナタさ──

──大丈夫。君を抱くのは、僕なのだから。……僕以外に、有り得ないのだから。……ね? 怖くなんてない。それでも、怖いと言うなら。君が怖くなくなるまで、僕を判らせてあげる」

彼は、子供特有の『なだらかさ』の名残りを感じられる、細い首筋に顔をうずめた。

「んっ……」

暖かい舌で、肌の上を舐め上げれば、セツナの躰は強張る。

「……怖い?」

「…………いいえ……」

一度、上目遣いで覗き込むように、窺ってやれば。

腕の中の彼が微かに、首を振ったから、カナタは又、舐め上げた肌の上に唇を寄せて。

「……………こうされるのは、怖い?」

──肌を。

痕が残るまで吸い上げ。

「いいえ…………」

「少しは、感じる?」

「……えっと……沢、山……」

「なら……。怖い?」

徐々に火照り出した、胸許や、背や、頬を、指先で辿り。

毛布を握り締めるべく逃げて行く、セツナの腕を追って、引き戻し、爪先に口付け、ゆくな、と、きつく抱き留め。

「怖い、ですよ…………」

幾度目かの同じ問いに、怖い、と返したセツナの薄茶色の瞳を、じっとカナタは見返した。

「……どうして?」

「だって……。こんなの、どうしたらいいか……判らないですもん……。自分が……自分じゃなくなりそうで……嫌です……。怖い、です……」

「…………何故? 君にそんな想いをさせているのは僕で、でも、君の傍にいるのは僕だよ? 僕が傍にいるのに、嫌? ──ねえ、セツナ。例えこの果て、君が君でなくなったとしても、僕は君が好きだよ」

────セツナの声を聞く為。

一度は止めた蠢きを、再び呼び戻して、カナタは低く囁き。

掠めるような接吻くちづけを、セツナの鼻先へ贈り。

「でも、御免ね? 僕も気遣いはするけど。慣れで、痛いのは克服して?」

「…………はい……?」

くすり、軽く笑ってカナタは、それまでに与えられた心地良さを、一気に吹き飛ばしてしまったような声を出したセツナを、きゅっ……と抱いて。

「……慣れろ、ってカナタさんっ…………。──……あっ……」

「平気平気、こんなに感じ易いんだから」

耳朶を食むことより、彼は情事を再び。