真実幸せそうな顔付きでユインが抱き締めても、抱き締められたカーラは、未だ、彼の言うこと成すこと、今一つ、信じきれなかったようで。
少々疑うような上目遣いで、暫くの間ユインの顔色を窺っていたけれど、やがて、ユインの言ったこともこの腕も、嘘ではないと信じられたのか、怖ず怖ず腕を持ち上げ、怒られたらどうしよう、そんな表情を作りつつ、そっと抱き返した。
「ねえ、カーラ。訊いても良い? どうして君は、僕のことを好きになってくれたの?」
だからユインは一層、カーラを抱く腕に力を込め、『そういう対象』として、一体自分の何処を気に入ってくれたのか、素朴な風に、問い掛けた。
「え? ……えっと……それは、そのぅ………………」
その問いに、先程のようにカーラは、言葉を詰まらせながら俯き。
「何処が……って言われても、困るんですけど……。その……強いて言うなら、全部、と言うか……。気が付いたら好きになっていた、と言うか…………」
それでもブツブツ、問いに答え始めた。
「そうなの? ホントに? どうせなら、この場で全部白状しない?」
「…………嘘じゃないです、けど……。……あー……。──…………あの、実は。……一番最初、ユインさんに助けて貰った時に、僕、その……ユインさんのことが、遠い異国の、戦いの神様みたいに見えたんです。物凄く強い、とっても強い、戦いの神様に。だから……、あれからずっと僕、ユインさんに憧れてて……。最初は、こんなに強いお兄ちゃんがいてくれたら良いのになって思って、その内、本当にお兄ちゃんみたい、になって。…………大好き、な人、になって……」
「……うん」
「だから、ユインさんがどんな人か知って暫く、只ひたすらいじけてましたけど、ユインさんが何処かに一人で消えちゃったのかも知れないって勝手に誤解したあの時に、僕は本当に、ユインさんと離れたくないんだ、って気付いて……それで……。どうしてそういう風に思うのかなって考えたら、ああ、僕はユインさんのことが『好き』なんだって判って、だから…………。……御免なさい、もう勘弁して下さい…………」
ユインの言葉ではないが、どうせならいっそ、全てを話してしまった方が、そう思って、カーラは顔を真っ赤にさせながら、ぽつぽつ告白を続けて、でも終いには、これ以上は恥ずかしくて言えないと、ぎこちなく、俯いたまま目を逸らせた。
「…………そっか。成程ね」
「……うー……。はい…………」
「……あのね、カーラ」
何でこんな恥ずかしいことを、一度に経験しなければならないと、そんな風情でいる彼の弁を聞き留め、ユインは益々幸せそうに、顔を綻ばせつつも。
再度、カーラを呼びながら、一転、真剣な顔付きになった。
「……はい?」
「君は、僕のこと、好きだ、って。そう言ってくれたよね? 僕は男で、君も男で、でもそれでもって、そう思ってくれてるってことだよね? それくらい、君は僕のことが好きだって。僕は思ってもいい?」
「…………それは……、ええ、はい……」
「なら、カーラ。聞いて? ──僕も、君のことが好きだよ。僕は男で君も男で、でも、そんなことってそう思える程、君のことが好きだよ。君が、今教えてくれた感じで僕のこと好きになってくれたみたいに、僕も君から目が離せなくって。弟みたいで可愛いなって、そう思って来たけど、何時の間にか、君から離れられなくなってるって知って。君が好きなんだろうなと、自分の気持ちに気付いた」
「…………そう、なんですか?」
「うん。本当のこと。……でもね? 君も知ってる通り、僕はソウルイーターを持ってる。それが可能だと言うなら、何時の日か、僕はこれを手放すんだろうとは思うけど、今は未だ、紋章を持ってる。……これがどういう代物か、君も良く知ってる……よね? だから、僕が君のことを、好き……ううん、愛してるって思うことは即ち、君がこの紋章から、餌食として狙われるだろうってことになる」
「…………ユインさん、そ──」
「──…………それでも、いい? それでも君は、僕のこと、好きだと言って、好きだと思ってくれる? 一緒に、これと戦ってくれる? ……決めたんだ。君も、僕のことを想ってくれると言うなら、僕は君を手放したりなんかしないって。君が良いと言うなら、一生でも永遠でも、君と添い遂げるって。……だからね。僕はソウルイーターに、一世一代の大喧嘩を売る。……それでも構わない? 君を危険と隣り合わせにしながらこれに喧嘩を売ってもいい? …………守るから。絶対に、守ってみせるから。僕のこと、支えてくれる? 君の前では、遠い異国の戦いの神様みたいに、強く在ってみせるから。……傍に、いてくれる?」
カーラのことを抱き締めていた腕を解いて、未だ濡れている彼の頬に、両手を添えて上向かせ、どうしようもないくらい、真剣な表情、真剣な声音で、ユインがそう言えば。
「…………ユインさん」
「何?」
「……それって、プロボーズですか?」
急に、カーラはくすくす笑い出した。
「プロポーズ? ……して欲しいの? 求婚。カーラがして欲しいなら、今直ぐするけど? あ、御式とか、きちんと挙げたいとか? でも……カーラ、女装平気? ……うーん、僕達両方共男だから、双方男側の正装でも良いのかもだけど、どうせなら、君にドレス着て貰って挙げた方が、僕的には美味しいかも、って感じだし、それに家の納戸に、未だに僕の母が挙式の時に着た衣装がある筈で──」
「──あの、そうじゃなくって」
「……ああ、ハイランド式の衣装の方がいいとか? そうだよね、カーラの育った場所はハイランドだもんなあ。でも、トラン式の結婚式も結構綺麗で……──」
「…………あの、そうでもないです。そういう意味じゃなくって。……もしかして、ユインさんわざとやってます……? ──僕が言いたいことは、そういうことじゃなくて。……そりゃ、一応男の身でも、『プロホーズ?』って聞こえるくらいのこと、言って貰えるのは凄く嬉しいですけど」
「……なら、本当に結──」
「──ぶちますよ? ──……大丈夫ですよ。ソウルイーターのことくらい、僕だって承知してます。だから、大丈夫です。そんな風に確かめなくっても、僕、ユインさんと一緒にいます。僕だって、ユインさんと離れたくないって強く想うくらい、ユインさんのこと、好きですから」
少々鬼気迫る風にユインが告げたことが、まるで求婚の言葉のように聞こえてしまって、思わず笑い出したら、わざとなのか、本気なのか、ふざけたことを言い出されたから、笑いながらもカーラは、怒っているように口を尖らせて、恋人になったばかりの彼を黙らせ。
最後に、にこりと笑い、大丈夫ですよ、と。
「…………それこそ、カーラにそんな風に言って貰えるなんて、嘘みたいだけど。……有り難う。────幸せにするから、期待してて?」
だからユインは、最後まで冗談めかして、両手で包み込んだままだったカーラへ、唇を寄せた。