結局、あの三人がいても役には立たないから、と、手分けしてユインを捜す道を諦め、彼等を置き去りにもして、ルックは星辰剣を抱えたまま、それまでいた辺りよりも、少しばかり北へ飛んだ。

「……一寸。協力してくれない? どっかの馬鹿捜さないとならないんだよ」

飛んだそこで、重い、と文句を吐きつつ、鞘より剣を抜いてルックは物言う剣に話し掛ける。

『協力? 何故なにゆえ?』

「ビクトールの腰にぶら下がってたんだから、大体のこと判ってるんだろう? マクドール家の、色ボケお坊ちゃん捜さないとならないのに協力しなよ。僕には未だ無理でも、あんたなら、ユインがどれだけ紋章の気配消しても、捜せるだろう?」

そして彼は尊大な態度で、星辰剣に言い捨て。

『……まあ、協力してやってもいいが……』

「してやっても良い、じゃなくって、して貰わないと困る。……この辺に、ユインの奴いない?」

『………………いない、な。もう少し、西だ。……そうだな、ここから、四里程、西』

「四里、ね」

その程度のことでいいなら、力を貸してやっても良いと言った星辰剣の導きに従って、ルックは再び、飛んだ。

その後、二、三度程、転移を繰り返し、ルックは漸くユインを見付け。

「…………あれ? ルック?」

突如、己の目の前に現れた彼へ、珍しく、驚いたような顔を作ったユインの腕を、無言のまま引っ掴んで、又転移し、置き去りにされ、街道の片隅で、ルック曰く、馬鹿面を晒していた役立たず三名の許へ行き、重たい星辰剣をビクトールへと投げ返し、何処までも無言のまま、いい加減、唱えるのが嫌になって来た転移魔法の光の中へ、四名を、蹴り込むように押し込んで。

「………………もう、知らな……い、から、ね…………。後、は……勝手……に、しなよ、ね…………」

転移魔法の唱え過ぎか、疲れ果てたように、肩で息をしながらルックは、ロックアックス城の裏門の、ド真ん前に四名を落とすと、

「じゃあね」

……と、一言のみ言い残し、消えた。

「…………何がどうなってるのかな?」

だから、問答無用で、訳も判らず、ロックアックス城の前へと連れて来られたユインは、不思議そうに、三人の仲間を見比べて。

「まあ、道々説明すっから」

ビクトールとフリックの二人は、ユインを引っ張るようにし。

「え? ……えっと? あの、俺は? 俺は何で、ここに連れてこられたんだ?」

「それも、後々! いいから、シーナ、お前も付いてくりゃあいいんだよっ」

──カーラ達一行が、マチルダ騎士団の旗が翻る塔を目指す為、城内を、半分程進んだ頃。

彼等は、先行く仲間達を追って、飛び込んだ城内の廊下を駆け抜けていた。

「……で? わざわざ、僕を捜しに来た理由って?」

良いから急げ、兎に角急げ、との、傭兵二人組に急き立てられて、所々に、カーラ達へと挑み、そして倒された敵兵達が転がる廊下を全速力で駆けつつも、気軽な散歩をしている風な声音で、ユインは傭兵達へ問い掛ける。

「…………実はな」

城に飛び込んだ直後から、備蓄棟の東へと辿り着くまでの間に、ユインは、誠に簡潔に、ではあったけれど、ミューズでカーラやビクトール達と別れてから、今まで自分がどうしていたのかを語り終えていたので、今度は傭兵達が代わる代わる、手紙の一件を彼へ教えた。

「……へーーーーぇ……」

と、ビクトールやフリックの事情説明が終わった途端、激高した者が、それでも笑おうとするとそうなる、典型的な『怖い笑み』を、ユインは湛えた。

「……握り潰したんだ、あの手紙」

「…………俺達に八つ当たりすんじゃねえ。怖いから止めろ、その顔。……兎に角、そういう訳でな」

「ふうん……。懸命な判断だね」

──あ、キレたな、と。

搾り出される声を聞いているだけで、ユインが怒っているのに気付いた三人は、嫌そうに顔を背け、そうか、そうなんだ、と、怒りを撒き散らし始めた当人は、幾度か、会得したように頷いた。

「さっきは、端折ったんだけどね」

そうして彼は、怒りの乗ったままの声で、八つ当たりはご勘弁との周囲の苦情を無視し、語り始め。

「……あ? ……ああ」

「一寸ドジっちゃって、数日、白鹿亭の裏の、シンダル遺跡に隠れてたって言ったよね。……そこで、ハイランドの兵士達が言ってたことなんだけど」

彼は、シンダル遺跡の中で小耳に挟んだことを、三人へと伝えた。

「…………じゃあ、何か? ジョウイやレオンは、カーラや同盟軍を、じゃなくって、最初っから、お前に何か、『用事』があったってことか?」

「多分ね。と言うか、出来れば否定したいんだけどね。あの時ミューズに、あれだけの数、獣の紋章の眷属が溢れてたのは、『僕の為』なんじゃないのかな。何が目的なのかは知らないけど、ジョウイ君とレオンは、僕に『用事』があったんだろう。……用事、なのか、お命頂戴、なのかも、知ったこっちゃないけど。──……でも。そうまでして僕のこと追い掛けたのに、あっさり、『諦めた』んだよ、あの二人」

「だが……。それは、アレじゃないのか? 俺達が、ロックアックスを攻めようとしてるってのが判ったからじゃないのか? 傭兵砦の方にも、キバ達が向ったし……」

「……どーして、そう思うかな、フリックは。一寸考えてみれば、判ることだと思うけど? ──傭兵砦に、同盟軍の一部隊が向ったって、レオン達に報告入ったとするよね。ってことは、どれだけの規模の部隊が、傭兵砦に向ってるのかも同時に判る。どう考えたって、陽動作戦としか思えない五千前後の部隊押さえるだけだったら、一万かそこら、部隊を割けば充分じゃないか。シンダル遺跡の中に潜り込ませた、高々数十人程度の兵士まで、呼び戻す必要が何処にあるの?」

「…………あー、確かに。ユインの言う通りかも……」

「ほら。……ね? シーナだって同意してる。……だから。だとするなら、答えは一つだと思わない? もう、僕を構う必要がなくなったからだよ。放っておいてもいいからだよ。その理由は多分、カーラがロックアックスに行くから。……以上、納得?」

「……納得」

「………………だから、人が、わざっわざ、木こりの皆さんー、に頭下げて、ナセル鳥まで借りて、忠告添えた手紙出してやったのに……。『恨みっこなし』に、一先ずはしてやったのに……。…………あの糞軍師っっ! カーラに何か遭ったら、ソウルイーターの餌食にしてやる」

──ああでもないの、こうでもないの、何時も通りの気楽な調子ではあるけれども、何処までも怒りの滲んだ声で、ユインは思う処を語り終えて、その最後、シュウへ対する、盛大な悪態と呪いの言葉を吐き、物陰から飛び出て来た敵兵を、怒りに任せてぶち倒した。

「……シュウも、一応は、正軍師なんだからよ。餌食にするとか、そーゆーのは、勘弁してやってくれな……。処で、『恨みっこなし』ってなぁ、何のことだ?」

あからさまに、成すこと言うこと全てに感情を滲ませるユインの姿に、あー、これは何を言っても無駄だと、諦めの境地に達しながらも、それなりに、シュウを庇う科白を、ビクトールは言ってみたが。

「ん? 『恨みっこなし』? ……内緒。──カーラが無事だったらね。手加減はしてあげてもいいよ?」

見ようによっては、爽やか、とすら例えられる風に笑って、ユインはビクトールを見詰めた。