5. 少年達の企み
シュウが、真実、ルカ・ブライトの死を嘆くなら、その命を救うことも厭わない、と決めたセツナと、そんなセツナに入れ知恵をしたカナタの企みは、殊の外上手く運んだ。
──あの、螢の舞い踊った湖畔の丘上で、ハイランドの狂皇子は死んだと見せ掛けるのに成功してより三日。
何とか意識を取り戻したセツナは、ルカのことをビクトールに任せて様子を見に来てくれたカナタを捕まえ、
「僕、考えたんですけども」
床にいる割には元気な声で、そう言った。
「又かい? 今度は、何を考えたの?」
始まった、「僕、考えたんですけど」の一言に、カナタは、寝乱れたセツナの髪を直していた手を止め、向き直る。
「ルカさんのことなんですけど」
「うん」
「シュウさんのことを抜きにしても。やっぱり、ルカさんは生きてた方がいいと、僕は思うんです」
「どうして?」
「あの丘上で言ったみたいに。ルカさんは、自分のしたことを生きて償うべきだと思うんです。生きて……生きて。後悔することから始めて貰おうかな、って。僕、そう考えたんです」
「……それが、君の答えであり、慈悲……かい?」
シュウの為に『手加減』を加えはしたけれど、償いは、きっちりと、生きて成して貰いたい、と言ったセツナに、低くカナタは問うた。
「慈悲……って、能く判りませんけど。でも……それがいいんじゃないかなあって、そう思ったんです。済し崩しだけは駄目だって。殺された人達の為にも、ルカさんの為にも、シュウさんの為にもならないって。ルカさんには、死ぬ程後悔して貰いたい。何をしてしまったのか、知って貰いたい。報われない、全ての人の為に。ルカさんには、死ぬ程の後悔を覚えて貰って。シュウさんには、少し、自分の為に生きるってこと、知って欲しい」
低い声の問いに返された少年の声は、らしからぬ、やはり低い声だった。
「じゃあ……少し、目的を変えたら?」
セツナの髪を弄っていた手を再び動かして、カナタは言った。
「目的?」
「シュウとルカが、互いどう思っているのかを気付かせるのを、君の企みの一番の主題にするんじゃなくて。君がルカに願うこと、シュウに願うことの成就を、一番の主題にすればいい。その為の知恵だったら、幾らでも貸してあげるよ」
「どうするんです?」
「そうだねえ……。……先ずは。ルカに、人間の暖かみでも思い出して貰おうか。人の冷たさなんて、もう、彼には必要ないだろうから」
「あ。マクドールさん、頭良い」
「お褒めの言葉、有り難う。──さ、後は、君が元気になったら話そうね。だから少し、お休み」
セツナの『願い』を叶える為に、カナタは又少し、要らない入れ知恵をして、寝乱れた少年の髪を整え終え、毛布を掛け直し、じゃあね、又後で、と静かに出て行った。
だから。
それから又、数日が過ぎて、セツナが寝台から起き上がれるようになった時。
ルカとシュウの運命は決まって、様々な思いを含んだ、少年達の企みは始まり。