9. 始まりの紋章
沢山の、暖かい人達、哀しい人達と関わって来た、長かった戦争の終わり。
最後の戦いに赴くべく、少年達は立ち上がった。
人々へ向けた想いの内、唯一の心残りだったシュウとルカの二人に『一応』の決着が付くのを見届けて、カナタがセツナを『押す』。
「…………さあ。そろそろ、行こうか」
「そうですね。最後の気懸かりも、何とかなったみたいですしね」
背中を押したカナタの言葉に、セツナは頷いた。
「僕は、僕の決着を付けに行きます」
「傍にいてあげるよ。最後の最後、までね。何が遭っても」
「宜しくお願いしますね、マクドールさん」
「………ああ。共に、ゆこうね」
──バナーの村の池の畔で知り合ってより、数ヶ月。
幾度となく繰り返したやり取りを、二人は又なぞって、ルルノイエ皇宮へと向かう為、歩き始めた。
「あ、おいっ。待てよっっ」
心残りを見届けていた少年達と居合わせる格好になってしまったビクトールとフリックが、彼等を追い掛ける。
「え、もしかして二人共、僕が何も言わない内からその気満々なの?」
「あー、駄目駄目、セツナ。この二人にそんなこと、言うだけ無駄だよ。僕の時だって、自分達で勝手に、一緒に乗り込むって決めてたんだから」
最終決戦の舞台には自分達を連れて行くのが当然、と言わんばかりに付いて来た傭兵コンビを振り返って、セツナとカナタは笑った。
「しょうがないですねー。……そんなに大勢では行けないからー。えっと、僕の部隊は、僕でしょ、マクドールさんでしょ、ビクトールさんにフリックさんにー。あ、後、ルックに付いて来て貰って、えっと……あ、クライブさんにしよっと。うわー、花がないですねぇ」
「そうだねえ。ゲオルグの処にはオウラン達が一緒だし。青赤の騎士団長達の処はカミューが花みたいなものだしねえ。アニタやバレリア達の隊は、それこそ花だし。メイザースの処には『御長老』がいるしね」
「……それは何か? 俺達が一緒じゃ、ムサ過ぎて不満だってことか?」
後ろ向きで歩きながら、ケラケラ笑いつつ仲間達が待ち侘びている場所へと進む少年達に、ビクトールがムッとしながら言った。
「そんなことないよ。ルックだってクライブさんだって、ムサくはないもの」
「言えてる。暑苦しいのは、ビクトールとフリックの二人だけってことかな」
「お前らなあ……」
機嫌を損ねたビクトールの悪態にも負けず、更なる軽口を叩く彼等に、フリックがめげた。
「いいじゃない。僕、不満だなんて一言も言ってないでしょ? 二人だから軽口だって言えるんだから。ね? マクドールさん」
「『それなり』には強いしね、傭兵コンビは」
何時も通りの態度を見せた傭兵達に、少年達は笑い声のトーンを上げ、集っていた仲間達へ向き直る。
「賑やかじゃの。散歩に行くような気楽な道行きかえ?」
わいわいと、騒ぎながら姿見せた彼等に最も近かったシエラが、呆れたように言った。
「気楽って訳でもないですけど」
「宜しいじゃありませんか、シエラ様。盟主殿らしくって」
やれやれ、と言った感になったシエラを、傍に控えていたカーンが宥めれば、
「いっそ剛胆で、好ましいと思うがな。気負われるよりは、よっぽど良い」
その剛剣を肩に担いで、ゲオルグ・プライムは微笑んだ。
「我々の盟主殿ですからね。大丈夫ですとも」
「……ああ。そうだな」
セツナとカナタの登場によって、途端賑やかになった一帯を見遣り、カミューとマイクロトフは頷く。
「お気楽なのは仕方ないと思うけどね。馬鹿同士、じゃれ合ってるんだから。……で? 行くの? 行かないの? どっち」
どうでもいいけど、早くしてくれない? とルックが毒舌を吐いて。
「準備はいいぞ」
「あたいもね」
バレリアとアニタは、剣を掲げた。
「僕も、準備出来てます。…………じゃあ、皆、宜しくお願いします。──これで、最後です」
己を取り巻いた人々を見上げて、セツナはにっこりと笑い、軽やかにトンファーを握り直すと。
「幸せになりに、行きましょうね」
戦いの始まりにはそぐわない、ふんわりとした一言を残して、カナタと共に皇宮へと続く道を辿り始めた。