共に、ゆこうね。

────その言葉が、天魁星セツナにとってどれ程の意味を持つのか、出逢う以前より、僕は充分、知っていた。

知っていて、その言葉を吐いた。

……言うべきではない言葉だったんだろう。

愛したセツナのことを思えば、決して、言ってはいけない言葉だったんだろう。

でも、僕は口にした。魔法の呪文を。

黄金の都にての、あの夜に既に。

例えそれが、魔法の呪文であろうとも、受け止めるのも、選び取るのも、セツナ自身だから。

そう、受け止めるのはセツナ自身だった。

選び取るのも。

魔法の呪文を、魔法の呪文へと変えるのも。

何も彼もどうでいい、僕自身では有り得なかった。

だからもし、僕に罪があるとするなら。

ジョウイ・アトレイドのこと、彼等が真の紋章を分け合ったこと、ジョウイ・アトレイドを『倒して』紋章を完全なものにしなければ、セツナは不老にもならず、只、紋章に命を吸い取られるだけ、それらを知った後も尚。

己を取り巻く全ての人が、幸せであればいいのにと、セツナがルカさえも救うと決めた後も、尚。

共に、ゆこうね、とセツナに囁き続けたことのみだろう。

彼の成そうとすることによって、セツナの行く先が狭まって行くと、薄々勘付いても。

その行き先にあるのは悲劇と呼ばれるものかも知れないと、ぼんやり想像出来ても。

唯、黙って手を貸した僕のしたことは、罪ではないのか、と言う人もいるのかも知れないけれど。

そんなこと、僕の罪にはならない。

僕は唯、セツナがセツナ自身で望んだ道の為に、手を差し伸べただけだから。

例え、そのセツナの想いが、僕の放った魔法の呪文の所為で深まったのだとしても、それは、僕の罪じゃない。

僕の言葉の示す処を、セツナは本当の意味で知っていたのかも知れない。

でも、僕は唯、共にゆこう、とセツナに告げて、ひたすらに彼を待ち侘びた。

『たった一つ』、魔法の呪文を放つという罪を犯して、セツナが選び取ってくれるのを待った。

デュナン湖の畔で綺麗に舞い踊る、螢達の集う水のように『甘い』……甘い甘い場所へと、セツナがやって来てくれるのを。

僕と共にゆく道を、セツナが選ぶのを。

己を取り巻く全ての人を、幸せにしたい、と彼は言った。

優しく愛しい彼は、何一つとして諦めず、それを叶えようとした。

それが、彼の願いだったから。

遠い昔に望んだ形を取らずとも、全てを幸せにしたい、と彼は。

魔法の呪文の所為で狭まれた道をヒタヒタと進みながら、『何も彼もどうでもいい』この僕の、望んだ場所へ。

自ら、望んで。

僕をも幸せにする、という狭まれた選択を掴み取って。

セツナは。

────セツナ。

愛しい、僕のセツナ。

天魁星を導ける唯一の存在。

僕が望んだように、君が望んだように。

僕は君を支えてあげよう。

君は僕を支えておくれ。

導いてあげる。

だから、導いておくれ。

僕達の立つ場所は、螢の水のように『甘い』。

セツナ。

君が望むように。僕が望むように。

僕は君の傍に在ろう。

僕と同じく不老になって、甘き場所に立つ君の。

傍らに常に、僕は在ろう。

共に、ゆこうね。