11. 螢の水 ─セツナ─

どうして、こんなことになっちゃったのかなあ……って、最初の内はずうっと、そればっかり考えてた。

孤児だった僕には、僕を拾ってくれたゲンカクじいちゃんやナナミや、幼馴染みのジョウイと過ごしたキャロ──ハイランドが故郷で、愛国心って言ったら大袈裟なんだろうけど、唯、頑張りたいなって思ってユニコーン隊に志願したのに、ルカさんが戦争の続きをしようなんて考えた所為で、滝に飛び込んでまでハイランド故郷から逃げ出す羽目になった。

けど、敵だった都市同盟の傭兵のビクトールさんとフリックさんに拾われても、やっぱりキャロに帰りたくって、帰ってみたら、僕達の隊を襲ったのは都市同盟の人ってことになってて、僕達はスパイってことになっちゃってて。

唯、逃げて、逃げて。

気が付けばジョウイはアナベルさんを殺してて、もう一回僕達は追われて、ハイランドは都市同盟に攻めて来て、何とかしなきゃー……、ってビクトールさん達の知り合いだったアップルさんと一緒に、シュウさんに軍師になって下さいってお願いしたら、僕が盟主に、ってことになっちゃった。

……あの時、ナナミはすっごく反対したけど、でも、僕は僕の意志で、それを引き受けた。

決して、シュウさんが怖かった、とか、そんなんじゃなくってね。

だって僕は、幸せになりたかった。

ナナミやジョウイと一緒に暮らしてた、キャロの街での時間が戻るんだったら、そうしたいって思った。

戦うことで、強くなることで、幸せになれるなら。

ナナミやジョウイを幸せに出来るなら。

戦おうって。

そう、僕は思った。

僕が、拾われた子だったからなのかな。

幸せになりたい、幸せになりたい、幸せになりたい。

僕は、そればかりを思った。

キャロの街で得た『幸せ』を取り戻して、もう一度、幸せになりたかった。

幸せになりたいから、誰かが泣く処なんかもう見たくなくって、ピリカみたいに傷付く子ももう見たくなくって、皆が一緒に幸せだったらなって、僕は考えた。

……だから、頑張った──つもりだった。

実際、皆が心配する程は苦しくなかったし、僕が自分で選んだことなんだもん、決して辛くもなかった。

でも。

幸せになりたい、あの頃を取り戻したい、ジョウイとナナミと、キャロに帰りたい。

そんな僕の思いは中々叶ってくれなくて、皆に悟られないようにしながらも、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……、って心の何処かで考えることは止められなくって、運命を、僕が天魁星だってことを、僕は上手く笑い飛ばせなかった。

何時か、あの人が言っていたように、運命なんて、所詮運命で、自分の手でどうとだって出来ることで、時々僕を倒れさせる真の紋章だって、皆を癒すことが出来る只のお便利アイテム、って思えていたのに。

あの人がそうするみたいに、僕はそれを、軽々笑い飛ばせなかった。

運命は、自分の手で変えてしまえばいい。

お便利アイテムな紋章が、僕の命を奪うなら、奪われないようにすればいい。

僕を取り巻く全ては、それっぽっちのことでしかなかったのに、僕を囲む沢山の人達が、沢山の大切な人達に望まれることが、伸ばされる手が、僕には痛かった。

でも、そんな時。

僕はあの人に出会った。

僕を、僕だけを、慈しんでくれるあの人に。

バナーの村の池の畔で、おや? って振り返ったあの人を見た時、お兄ちゃんがいるなって、そう思った。

どうしてそう思ったのか、あの時は理由が判らなかったけれど、後になって気付いた。

あの人──カナタ・マクドールという人が、天魁星の許に生まれた人だったからだ、と。

カナタさんが、天魁星であるが故に僕の『全て』を知っていたから、僕は彼を、お兄ちゃん、と思ったんだと思う。

カナタさんは、本当に兄のような人で、とてもとても優しかった。

僕を、甘やかしてくれた。

右手の紋章の所為もあったんだろうけど、何も彼もどうでもいい『高み』に行ってしまったくせに、僕だけに、僕だけの手を差し伸べてくれた。

そうして、カナタさんは。

何も彼も判っていたくせに。何も彼もどうでもいいと思っていたくせに。

優しい、お兄ちゃんのようなカナタさんは。

『共にゆこうね』、と。

僕に、魔法の呪文をくれた。