共に、ゆこうね。
────黄金の都でのあの夜、カナタさんの言ったその言葉は、僕にとっては正しく魔法の呪文だった。
────僕の周りにいる沢山の人が、ナナミが、あの頃はもう遠かったジョウイが、僕に想いをくれた。
異口同音に、一つの想いを僕にくれた。
傍にいてやる。守ってあげる。大切だよ。
……そんな風に。
けれど、カナタさんの言ったことは、それまで、誰一人として僕にくれなかった想いだった。
何処までも、共にゆこう。
そう言ってくれたのは、カナタさんが最初で最後だった。
──幸せになりたかった。
僕を取り囲む全ての人を、幸せにしたかった。
何一つ判らなかった僕にゲンカクじいちゃんがくれたこの名のように、僕は、刹那の時を見詰めて唯ひたすらに歩いた。『幸せ』の為に。
皆が僕に望んだ。
勝利だったり、平和だったり、希望だったりを。
望まれる一方で、誰も、僕にそれを見せてはくれなかった。
辛かった訳じゃないし、苦しかった訳でもないけれど、与えて欲しいと思うことが、僕にだってない訳じゃなかった。
天魁星を導いてくれる人なんて、何処にもいなかった。カナタさん以外には。
…………だから。
カナタさんが唱えた魔法の呪文に、僕は、はい、と答えた。答え続けた。
それは、僕の望みであり、カナタさんの望みでもあったから。
宿った魂喰らいの所為で、『痛め』られるカナタさん。
あの人こそを、幸せにしてあげたい、と僕は思った。
例え、カナタさんの囁く魔法の呪文に耳を傾け続ければ、僕の進む道が細くなると判っていても、僕は、カナタさんの傍にいたかった。
共に、ゆきたかった。
──何時か、カナタさんが言っていたように、天に輝く星々が数多あろうとも、天魁星を導ける者など、天魁星以外、この世にはいない。
天を魁ける僕等は、全ての人に沢山のことを求められる。
僕等に、何かを与えてくれる人はいない。
僕達は唯、握り締めた水よりも簡単に、全てを零しながら進んで行くだけ。
けれど、僕達は止まれない。
止まれない僕を支えられるのはカナタさんだけで、止まれないカナタさんを支えられるのは僕だけ。
だから僕は、選んだ。カナタさんと共に在る道を。
カナタさんが唯一犯した罪に背中を押されて選んだ道かも知れないと、そう思っても。
螢達が舞う水辺のような、『甘い』……甘い甘い場所へおいで。老いること赦されない場所へおいで、とカナタさんが望んでいると気付いても。
永劫の刻を、あの人と共に歩む道を。
…………僕は、カナタさんを幸せにしたかったから。
僕と一緒にいればカナタさんが『痛く』ないなら、傍にいたいと願ったから。
カナタさんが見詰める彼方に、刹那を見詰める僕には見えない彼方に、悲劇があるんだって、知っていても。
後悔なんてしてない。
僕は確かに、大切な人を幸せにした。
ナナミも、ジョウイも。
遠い昔、そうであればいいのにと、望んだ形ではなかったけれど、僕に出来る限りの形で、ナナミの、ジョウイの幸せを形にしたつもり。
ナナミが望んだから、あの刹那、僕は『僕として在った』し、ジョウイが望んだから、盟主という立場を一時だけ忘れて、生きて償う苦しさを、ジョウイには与えなかった。
決して、カナタさんの為にしたことじゃない。
────カナタさん。
大切な、僕のカナタさん。
僕に、僕だけのものをくれた、たった一人の人。
貴方が望んだように、僕が望んだように。
傍にいて下さいね?
傍にいますね?
僕の手を取って下さい。
貴方の手を取らせて下さい。
貴方の立っている、螢の水のように『甘い』場所に、僕は辿り着きました。
カナタさん。
貴方の老いること許されない時間を、共に歩かせて下さい。
幸せになりましょうね。
幸せになる為に歩きましょうね。
共に、ゆきましょうね。