彼等が、そんな関係に到ることになってしまった理由は、様々にあるけれど。

数ヶ月前に始まって、いまだ、何時終わるとも知れない、デュナンの戦争の最中。

今を遡ること、数週間前。

デュナン地方とトラン地方の国境に接する鄙びた村、バナーにて、偶然だったのか、必然だったのか、それとも、『運命の悪戯』と云うそれか……兎に角、その何れかの理由で、彼等二人が出逢ってしまったその時に、もうこうなることは決まってしまっていたのかも知れない。

基本的に解り合える要素である、年齢、と云う奴が近しい所為もあったし。

片方は三年前に置かれていた、片方は現在置かれている、『立場』が、誠に等しい所為もあったし。

双方共に、真の紋章──ニクスの方は、不完全な真の紋章とは云え──を宿してしまっている身の上、との事情もあったし、で。

近親感と云うか、良い意味なのか悪い意味なのかは別として、『同族意識』と云うか、を、呆気無い程簡単に、二人は互いに抱き、親しくなるのに時間は要さず。

やはり、呆気無い程簡単に、互いに対する親しみを、彼等は殆ど同時に、『愛情』へと変えてしまった。

…………もしかしたら、彼等のその心の成りゆきには、自分達の心根を解ってくれる者なんて、自分達と同じ身の上の者でしか有り得ないだろう、との、ほんの少しばかり後ろ向きな想いであったのかも知れないけれど。

成りゆきなぞは二の次で。

彼等は親しみを恋に変え、恋を、愛に変え。

二週に一度程度、こうして、それぞれに近しい者達にも秘密の、逢瀬を交わすようになった。

────唯、単純に。

会う、と云う行為だけならば、もっとずっと頻繁に、彼等は繰り返している。

二人がバナー村にて巡り会った時、その場には、三年前トランで起こった『伝説の戦い』を共に駆け抜けた者達も居合わせていたし。

そこで勃発した、『些細な出来事』の所為もあって、まあ、俗に言う成りゆきと云う奴で、『友人』としても親しくなったニクスに、タナが協力をする、と云う形で、彼等は年中、行動『は』共にしている。

けれど、タナとニクスがそんな風に時間を共有してみても、あくまでも、友人、若しくは同盟軍盟主とトラン建国の英雄の付き合い、との形を崩す訳には行かないし、彼等二人を取り巻く者達も、決して少なくはないから。

二週に一度だけ。

タナは、舞い戻った故郷の街、グレッグミンスターの生家を抜け出し。

ニクスは、己が城である、同盟軍の居城を抜け出し。

落ち合おうと決めた街の、約束の宿屋で、逢瀬を交わすのだ。

誰にも、内緒で。

──逢いたかった、と告げて、抱き着いたら。

僕も逢いたかった、と返して貰えて。

嬉しそうに微笑み、ニクスはタナの肩口辺りに顔を埋めながら、軽く、溜息のような息を吐き出した。

「…………どうした?」

「んー? グレミオさんのことだから、タナが家を抜け出したこと、今頃気付いてるんじゃないかなあって。今頃、目の端吊り上げて、タナのこと怒ってるんじゃないかなって。……ふっと、そんなこと思って」

小さく吐き出されたニクスの吐息にタナが気付いて、問い掛けて来たから。

ニクスは何処となく、笑い続けているような風情で吐息の理由わけを告げた。

「さあね。気付いてるかも知れないし、気付いてないかも知れないし。どうでもいいよ、そんなこと。気付かれたら気付かれた時。言い訳なんて、幾らでも言える。僕だってもう、子供ではないのだしね。……でも、それを言うなら君だって。抜け出して来たこと、気付いてる人がいるんじゃないの?」

語られた、理由を聞き届け。

タナは肩を竦め、僅か、ニクスを抱く手を緩めた。

「……知らない。ナナミは気付いてるかも知れないけど、僕も、そんなことはどうだっていいと思うし。そんなことよりも、タナに逢うことの方が大事」

「相変わらず、君はストレートだね、そういうトコ」

「…………そっかな」

「うん。まあ、僕は嬉しいけどね。素直にそう言って貰える方が」

──この場で、タナにとっては母にも等しい存在である、従者・グレミオの名前を出されたことへの、意趣返しだったのかも知れない。

タナは、ニクスが口にした想像を、そっくりそのまま返して、グレミオのことは今はどうでもいい、と言った己のように、ニクスも、大切な義姉のことなど、今はどうでもいい、と告げるのを待って。

腕の力を緩めたのを合図に、客室の片隅に据えられたベッドの方へ向き直ったニクスを促した。

「僕達の──

「……ん?」

「…………僕達の、本当の関係が皆にばれたら、どうなっちゃうのかな。そこで、何も彼も、終わっちゃうのかな」

「……どうだろうね。終わってしまうかも知れない。終わりはしないかも知れない。それでも続くかも知れない。もう二度と、『続き』はないかも知れない。でもそれも、『今』はどうだっていいだろう? …………そんなことよりも……──

──そうだね」

ゆっくり歩いても、直ぐに辿り着いてしまうベッドへ。

ほら……と、促されるまま向かい、片隅に、ちょこんと腰掛け。

徐に……本当に徐に、僕達の真実の関係が、周知の事実となったら……と言い出したニクスを、素っ気無い台詞でタナは制し。

考えても仕方がない……と、己と大差ない体躯の彼を、そっと押し倒して。

タナの体の重みを受け止めながらニクスは、静かに瞼を閉ざした。