禁断の恋愛10題 +Ver.A+
3. あの頃の自分は今の自分を想像し得たか?
どうして、近付いてはならなかった故郷の。
隣国で勃発している最中の戦争、その渦中にある同盟軍の盟主、などという立場を持ったあの子に惹かれてしまったのか。
それは、僕にも良く判らない。
僕自身の感情が辿り着いた場所なのに、僕自身にも判らない。
誰かにそれを問われても、恐らく返せる答えはない。
故郷トランの、建国の英雄と呼ばれ続けているらしい僕が、如何なる立場にあろうと、同盟軍の盟主であるあの子が、如何なる立場にあろうと。
僕が、躰のことだけをあげつらって言うなら、『少年』であろうと、あの子も又少年であろうと。
この世で最も呪われたそれであるらしい、生と死を司る紋章を宿した僕が、不老の世界に生きていようと、輝く盾という、不完全な真の紋章を宿したあの子が、限りある刻の世界に生きていようと。
好きになってしまったのだから仕方ない、と開き直って許されると言うなら、多分それが、答えの代わりくらいにはなるんだろう。
立場がどうあろうと、性別が同じであろうと、生きる刻が違おうと、気が付いたら何時しか好きになっていて、愛しく思うようになってしまったのだから、もう、仕方ない、と。
けれど、僕の右手に宿っているのは、この世で最も呪われた、と人々に言わしめる紋章だから、過ぎ去った、三年前のあの頃のような想いをしたくなければ。
三年前のあの頃、確かに僕の目の前にいた『人達』──彼等のような目に、あの子を遭わせたくなければ。
気が付いたら何時しか愛していた、などと、『そんな程度』の理由で、あの子の傍に居続ける訳にはいかないのに。
……どうして僕はここにいて、心秘かに、あの子を愛しているんだろう。
三年前のあの頃、確かに僕の手を握り返してくれていた彼等を喪った時、誰かを想うこと、それすら、右手の紋章が赦してくれないと言うなら、たったっそれだけのことすら、紋章が、罪悪と断じるなら。
……もう、二度と、と。
僕は、そう誓った筈なのに。
────何が僕を、変えてしまったのだろう。
もう、二度と、と。
……そう誓ったあの日の自分に、恐らく、今の自分を想像し得ることは出来ぬだろう程。
誓いさえ忘れて、何故それを誓ったのかすら置き去りにして、僕は一体、何を変えてしまったのだろう。
何が、僕を。
…………言われなくても判ってる。何をどう決めた処で、人は一人では、生きてなどいけぬと。
そんなこと、判っているけれど。
それでも、そう思ったのに。そう誓ったのに。
何が僕を、変えてしまったのだろう。
僕は何を、変えてしまったのだろう。
……そうして。
僕は何を、変え続けているんだろう。
End
後書きに代えて
今日もドトメ色。
……何と言うか、猛烈に根性逞しくて、馬鹿程性根の明るい坊ちゃんが書きたくなって来た。反動で(笑)。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。