禁断の恋愛10題 +Ver.A+

7. 渦巻く嫉妬に背を向けて

あの人自身がどんな嫌がっても、僕自身がどんなに嫌がっても、あの人が、三年前の英雄であること、それは変わらない。

それと同じように、あの人がどんなに嫌がってみたって、僕がどんなに嫌がってみたって、僕が今そうであるみたいに、あの人が今でも、三年前の戦争を戦った皆の天魁星であること、それも変わらない。

あの人は、三年が経った今日でも、三年前のトランのことを知ってる皆に想われていて、慕われていて、トランの国そのものの、拠り所みたいな人で。

だから、そんな存在であるあの人を見掛ける度に、あの人の傍に行く度に、あの人を取り巻く皆に、妬きもちなんか妬いてみたって仕方ない、それは、判ってるんだけど。

僕はあの人のことを、僕の『幸せ』の源になってくれる人だって、勝手に思い込んでしまっているから、あの人を、沢山の皆が取り巻いて、親し気な笑みを向けるのも、そんな皆に、あの人が親し気な笑みを向けるのも、見ていたくないと感じる。

見ていると、いたたまれなくなって来るんだ。

あの人に、親し気な笑みを向けたいのは僕で、あの人の、親し気な笑みを向けて欲しいのは僕で……、って、僕の中には、どうしようもない嫉妬心が渦巻いてしまう。

誰にもあの人を盗られたくなくて、あの人が誰かを盗るのも嫌で、だから、僕の中にはどうしても、そんな感情が生まれちゃう。

……でも、あの人と僕の間には、『不変』が深く深く横たわっているから、どんなに幸せになりたいって求めてみたって、僕にとってのあの人が『幸せ』の源だったとしたって、僕もあの人も、『幸せ』になんかなれっこないから、それでもいいや、そう思うしかないなら。

僕は、あの人を恋しく想う気持ちにも、渦巻く嫉妬にも、全て背を向けて、何一つ、僕は気にしてなんかいない風に。

あの人を、恋しくなんて想わない、そんな風に。

立っているしかないのかも知れない。

でも、でも、でも。

他の皆とは違って、僕には。

一緒に戦って貰う、その力を貸して貰う、それを振り翳して、建前にして、あの人へ。

「今度は何時逢えますか」

そうやって、乞うことが出来る。

僕にだけ出来る。

冷たい態度も、素っ気ない態度も取らず、

「君が、僕を連れ出したい時に来てくれればそれでいいよ」

と、そう言うあの人に、甘えるように。

そう言うあの人を、逃がさないように。

あの人のこと、僕は愛してなんていない、そんな風に、装って。

End

後書きに代えて

やっぱり、壊れてるな、この2主君(自分…………)。

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