割り、押し広げた脚の付け根の先の、未だ固く閉ざされている最奥の口に京梧が指で触れたら、龍斗は一際高い悲鳴を上げた。

「京梧っ! そこは……、それは、幾ら何でも……っっ」

「何遍も言ってるだろう? 案じるなって。男同士ってな、こうするんだよ」

「だが……」

「……俺が。俺が、お前と交わりたいと思って、こうしてるんだ」

けれど京梧は、上がった悲鳴をさらりと言葉で抑え込んで、何時の間にそうしたのか、枕元に潜ませておいた油で濡らした指先を、奥へ忍ばせる。

「んっ……」

「……痛むか?」

抉じ開けられようとするのを拒むそこに、少し強引に押し入った途端身を竦めた龍斗を、今更ながら京梧は気遣ったが、答え代わりにそろりと首が振られたのを見て、更に奥を探った。

熱いその中を辿るように指蠢かせていけば、投げ出されていた龍斗の手は、色が白む程敷布を強く掴んで、それを目の端で拾った京梧は、彼の腕を掬い、己が背に廻させる。

「京……?」

「どうせ何かに縋るなら、俺にしろ」

蠢きは止めず、こうしていていいのかと上目遣いを寄越してきた龍斗に耳許で囁いてやれば、彼は今度はこくりと頷いて、何かに耐えるように、縋った背に爪を立てた。

痛みにも成り得ない、甘いだけのそれに酔って、京梧は一層、龍斗の奥を探り、入り口を解し。忍ばせる指の数も、一つ、二つ……と増やして。やがて、漸く、とろりとした手応えを返してくるようになったそこへ、己の欲を押し当てた。

…………その頃にはもう、龍斗は、言葉も紡げぬ程に息絶え絶えになっていた。

「力、抜いてろよ?」

秀麗な面は、心も躰も取り乱し切っているのを示している風に、後から後から溢れる涙に濡れていて、ひたすらに泣くしか出来なくなった彼の頬に幾度も口付けつつ、京梧は、躊躇うことなく、一息に彼の『中』を貫く。

────上がるだろうと思われた悲鳴も叫びも、その刹那、龍斗からは洩れなかった。

手の爪は京梧の背を強く掻いて、宙に浮いた足先も何も無いそこを掻き、首筋は仰け反ったが、裂くような声だけはなかった。

それは、酷く熱くて脈打つモノを『中』の奥まで深く穿たれても、痛みなど、微塵も感じておらぬとの、無言の訴えに似ていた。

けれど、このまま身を揺らすのは流石に辛かろうと、蠢きを止めた京梧が震えるだけの龍斗のモノに手を添えたら、幾度か撫で上げただけで、それは呆気無く、手の中に欲を放った。

濡れた己が手に目を落とし、放たれたそれが甚く薄いことに驚いた胸の内を綺麗に隠して、にやりと笑んでみせた彼は、わざと龍斗に見せ付ける風に舐め取って。

その手で、汗に塗れた彼の、長くて黒い前髪を掻き上げ、優しく微笑んでやってから、腕の中の躰を思って留めていた蠢きを、京梧は再び。

………………それを、龍斗に打ち明ける気は京梧にはないが、掛け値なしに、彼はこれまで、あちらこちらの遊郭にての行きずりの行いを、数え切れぬ程してきた。

飽きた、と嘯くことも出来るくらい。

女と抱き合うことなど──否、誰かと抱き合うことなど、同じだと思ってきた。

誰と抱き合おうと、どんな躰を抱こうと、然して変わりはないのだと。

そしてそれは、彼の中では揺るぎない『真』だった。

けれど、龍斗だけは違った。

身も心も何も知らなかったつたないだけの彼なのに、腕に抱いた刹那から既に、これまでの女達とは何かが異なった。

それを、想いの深さの違いだと、一口に例えるのは容易いが、それだけでは言い表せぬ何かは確かに在り、確かに在る何かは、龍斗と交わった瞬、彼の躰を満たした。

故に、己を穿ってよりの彼の真の気持ちは、少しでも早く、自身の中に生まれた熱の全てを龍斗に注ぎ切りたい、と言うそれで、再び蠢き出した京梧は、覚えた衝動に身を任せる。

「……っ、京梧……。京……梧っ。……京…………っっ」

そんな彼に思うまま求められても、龍斗は唯、京梧の名だけを呼び続けた。

与えられる行いの熱さや激しさとは裏腹な、何処かぼんやりとした眼差しを宙に彷徨わせる彼は、京梧の手に導かれて一度目の欲を放ったことすら気付いていない風だった。

……いや、そのように見える、ではなく、事実、そうだったのだろう。

その刹那の彼には、己がどうなってしまっているのかも、よく判っていなかったのだから。

彼に判っていたのは、京梧が直ぐ傍に在る、それだけだった。

『自ら』よりも近くに京梧の心も躰も在って、彼が告げた通り、己の『中』で、自身と彼が交わっていることのみ。

奥深くで結び合った京梧から伝わるものは、熱い、としか言えぬ熱さだけで。

耳朶を打つのは、京梧の囁きだけだった。

物心付く前から、常に彼の傍らで渦巻いていた『数多の声』すら何処にもなく、京梧と、京梧が与えてくる熱さと、京梧の声と…………────

「きょ……う、ご……」

「龍斗……」

身を結び、交わりながら、愛おしい男以外何も判らなくなった彼と、そんな彼を何処までも求め続ける彼は、名を呼び合いつつ、互いを掻き抱いた。

程無く共に訪れる筈の果ては、酷く遠い先のことに思えた。

────もしも、この世に魂と言うものが在って。

在るかも知れぬ魂も、形を有していると言うなら。

その夜、京梧と龍斗が知ったのは、そして触れたのは、互いの、魂の形だったのかも知れない。