王華前で、仲間達と別れた帰り道。
醍醐からの物言いが付いた為、旧校舎絡みの話を忘れ去った振りはしていたものの、実の処、龍麻も京一も、未だに、己達の失態をブーブーと喚いてみたい気分であったので。
「やっぱよー、唯、闇雲に旧校舎で修行してみても、駄目なことは駄目なままなんだよなー」
「あー、それは言えてる。一寸、頭使ったり、工夫してみたりしないと駄目な部分があるのかなー、ってのは俺も思ってたんだ」
毎度のルートを肩並べて行きながら、腹が立つだの情けないだの悔しいだのと、京一と龍麻はぎゃあぎゃあと言い合い、が、一通り喚き立ててより後の彼等のやり取りには何とか、少しばかりの発展性と、建設性が生まれた。
「んーー。何か、いい方法ねえかな」
「京一、前にさ、お師匠さんがいるんだかいたんだか、みたいなこと、ちらっと言ってただろう? お師匠さんには、どんな修行付けて貰ってた?」
「……どんな、と言われても……。最初の内は、俺は丁稚か? みたいなことばーーーっかりさせられて、その内、来る日も来る日も、一日中、ひたっすら木刀振らされて、そっからは、ガキの頃からずっと通ってた道場で散々叱られても中々直らなかった、構え方の変な癖、頭、バコバコ引っ叩かれながら直されてー……」
「…………地道だね」
「……確かに。龍麻、お前は?」
「ああ、地元で古武道習った時? 三ヶ月だけだったから、ホントに基本中の基本を教えて貰っただけ。武道やるには体力足りないかも、って言われて、毎日走らされて、後はもう、お決まりの礼儀がどうたらとか、型がどうとか、そんなんばっかりだったよ」
「ふーん。……って、技とかどうしたんだ? 教えて貰わなかったのかよ?」
「それが。俺の師匠だった人──京一には前に話した、鳴滝って人は、俺の本当の父さんの親友だったらしくてさ。若い頃、父さんと同じ道場に通ってたんだけど、父さんの方は陽の古武道で、自分の方は陰の古武道であーたらだから、特有の技とか奥義とかは、自分で修行して何とかしろって、物凄く年代物な本みたいなノートみたいなの、一冊貰っただけ」
闇雲に旧校舎に潜るだけでは、どうしてもカバー出来そうにない部分をどうやって鍛えるべきかの参考までに、龍麻は京一に、京一は龍麻に、以前の修行方法を尋ね。
「或る意味、猛烈スパルタだな」
「俺もそう思う。自分で何とかしろ、なんて言われてもねー……」
修行なんて所詮、何処まで行ったって地道なもの、との現実だけを噛み締めることになった二人は、同時に、うーむ、と唸った。
或る日突然、魔法にでも掛かったかのように強くなったり上達したり、などと、そんなこと有り得る筈も無く、強くなる為には、上達する為には、地道に修行する以外はない。
が、彼等には、そうも言っていられぬ事情がある。
何時何処で異形達が湧いて出るか、鬼道衆達に遭遇するか判らないから。
修行中の身だろうが何だろうが、そんな状況の彼等に『待った』はないから。
少しでも早く、少しでも強くならなくてはならないから。
例え僅かな差でしかなくとも、彼等流の言葉で言うなら、『手っ取り早く』強くなる方法を、何としてでも探り当てなくてはならなく。
「…………確かに、一寸した行き詰まりは感じるが」
「ん? 何? 京一」
「結局の処、鍛えるにゃ実戦が一番、ではあるよな?」
「多分ね。そういうことになっちゃうんだろうね。……今までよりも、もう少し、旧校舎に潜る回数と時間、増やしてみる?」
「それもアリだとは思うけど、それじゃ芸がねえだろ? だからー……──」
「──ふーーーーん……。………………俺はそれでもいいよ?」
──暫し、通学路を歩きながら、うんうんと唸り続け。
しかし、唸ってみた処で、地道に重ねて行くより他には術がない修行と言えど、どうせ『地道』に何かをやらなければならないなら、一番手っ取り早いのは実戦、な発想以外、絞り出すことが二人には出来ず。
やがて、何やらを思い付いたらしい京一が、やけに嬉しそうに、ニヤァ…………、と笑いながら小声で言ったことに、同じように、ニヤァ…………、と笑いながら龍麻が同意する形で、彼等の知恵絞りには決着が付いた。
昼下がりの頃に、一学期最後のテストを終えて直ぐさま旧校舎に潜り、仲間達とラーメンを食べて……、としていた京一と龍麻が、通学路を辿りつつ、何とか、今まで以上に強くなる為の一計を絞り終えたのは、午後六時を少しばかり過ぎた頃だった。
未だ、西の空には茜色に染まった太陽が浮かんでいたが、後一時間前後で夜がやって来てしまうからと、二人は来た道を戻り、既に閉められてしまった校門を乗り越え、数時間前以上にコソコソと、旧校舎に潜った。
五階層分だけ下り、各階層に湧く異形達をさっさと倒し、京一は、右手のみで掴んだ木刀を一度振ってから、龍麻は、キリ……、と手甲を締め直してから、静けさを取り戻した、何処より薄明かりの射す、ガラン……としたそこで、ニッコニコしつつ、少しばかり離れて向かい合う。
「ここなら、邪魔は入らねえしな」
「うん。それに、そこそこ明るいから、凄く好都合」
「……あーー、すっげ楽しみ」
「ふっふっふ。俺もー」
────何処までも笑みを崩さず、うきうきと弾む声で言い合った二人は。
始め、の掛け声もなしに、京一は構えた木刀を振り上げ、龍麻は手甲で覆われた右手を引き翳し、眼前の親友目掛け、挑み掛かって行った。
………………要するに。
旧校舎詣でをし、異形共を倒しても倒しても、改善されるべきことがきちんと改善されぬなら、目先を変えて、自分達で『目一杯』立ち合ってみれば、少しは違うんじゃなかろうか、と。
至極単純且つ短絡的な発想に基づく行いを、二人揃って実行したのである。