「『義弟』同士の内緒話や、とか言われてもなあ……」
「まーまー。そんな難しい顔しなくとも。ちょーっとだけ内緒の、些細な世間話ですってば」
「……ほんまかぁ……?」
「はい。ほんまですよー」
決して、その物言いと嘘臭い笑顔に絆された訳ではないが、九龍の期待に応える風に、劉が、少しだけ態度を変えたので、さっ! と九龍は『魔法ポケット』より巨大な麻布を引き摺り出して、その場に広げた。
「…………アニキや京はんから聞かされとったけど、ほんまに九龍は何時でも、『ピクニック仕様』なんやな」
「ピクニック仕様って、どーゆー意味ですか。……後で、京一さんと龍麻さん、問い詰めとこ。──って、今はそんなことどうでも良くって。……ま、座りませんか、弦月さん?」
「二人して、そないなもんの上に仲良う座ってどないすんねん」
「だから、話ですって」
ピクニックシート宜しくその場に広げられた麻布と、さっさとその上に座り込み、やはり、『魔法ポケット』から取り出したミネラルウォーター片手に、さあどうぞ! とやってみせた九龍を、胡散臭そうに劉は見下ろしたけれど、結局、彼も又、溜息付き付き、探索時も『ピクニック仕様』な九龍に倣い、二人は、九龍曰くの『義弟同士の、少しだけ内緒の一寸した世間話』を始める。
「……ほんで? 情とか柵とかに訴えるのだけは勘弁してぇな」
「やだなあ。目一杯、訴えるに決まってるじゃないですか。ハハハハハ。────単刀直入に言います。……弦月さん。少しの間だけ、俺達と協定結びません?」
「協定……て、どないな協定をや?」
「ここから先は、お互い、『M+Mのエージェントの助手』ってのと、『ロゼッタ協会所属のハンター』ってのを、綺麗に打っちゃっての相談なんですけどね。──それぞれの立場を打っちゃっても、流石に、俺達が此処に何を探しに来たのかまでは、正直には打ち明けられませんけど。ヒントなら白状出来ます」
「……ヒント?」
「はい。…………あのですね。此処での俺達の探索が上手くいけば、龍麻さんの悩みの種の、『黄龍封印問題』を何とかする手掛かりもゲット出来るかも知れないとしたら。……弦月さん、どーします?」
「……………………九龍。それ、真面目に言うとるん?」
内緒な世間話に耳傾けるや否や、協定を持ち掛けられ、劉は一瞬、不審そうな顔付きになったが、何故、協定などを持ち掛けたのかを九龍が話し始めた直後、目の色を変え、身を乗り出した。
「勿論。真面目も真面目、大真面目ですって。嘘でもハッタリでもないです。……上手くいくかどうかは、やってみなきゃ判りません。俺と甲ちゃんが探してるブツが、此処に眠ってるって確証は何処にもないです。『かも知れない』って可能性があるだけです。でも、『かも知れない』が本当になって、ブツがGet Treasure出来れば、『黄龍封印問題』解決の糸口も、一緒にゲット出来るかもです。何も彼も、ぜーーーんぶ、かも知れない、って可能性だけの話ですけどね」
「そうやとしても……、アニキの義弟としても、封龍の一族としても、賭けてみたい魅力的な話やな」
「でしょ? ……と言う訳で。少しの間だけでいいんです。一寸だけ、俺達のやることに目を瞑ってて貰えたら嬉しいなー、と。序でに、協力とかして貰えたら、もっと嬉しいなー、と。勿論、宇宙刑事やルイ先生に追い付かれたら、その瞬間に協定は破棄してくれていいですよ。逃げまくる俺の後追い掛けてた振りすれば、ルイ先生に叱られずに済むと思いますし、その辺は、俺も口裏合わせます。探索終了後なら、封印でも何でもしちゃってくれて構いません。その代わり、俺や甲ちゃんが此処でやることや、探してるブツのことや、ブツが『黄龍封印問題』解決の糸口を持ってるかもってことは、ルイ先生達には黙ってて下さい。……どうでしょ? 悪い話じゃないと思うんですが」
真顔で、射抜くような目を向けてきた劉へ、九龍は猫撫で声で、白状しても差し支えなかろう事情と、交換条件を畳み掛ける風に告げ、にまっと笑み、
「その話、乗った!」
「そう来なくっちゃ!」
握り拳固め、勢い立ち上がった劉と、やはり、ガッと立ち上がった九龍は、がっちり、龍麻の義弟同士として、固い握手をした。
「……あー、良かった。追い掛けて来たのが弦月さんで。宇宙刑事じゃ、こうは行かないもんなあ……」
「そらそうやろ。……って、そうと決まれば、早い方がええんちゃう?」
「ですな。と言っても、宇宙刑事やルイ先生達に追い付かれないこと祈りつつ、この先に進んでってみるしか、出来ることはないんですけどねー……」
そうして、忙しなく畳んだ巨大な麻布を、九龍が『魔法ポケット』へとぎゅむぎゅむ仕舞い込むのを待って、義弟コンビは、先を目指し始める。
「約束したさかい、余計なことは訊かんようにはするけど、ブツが、例えばどないな形しとるとか、その辺のことは教えて貰わな、手伝いようがないなあ……」
「あー……。それがですねえ、俺達にも、海の物とも山の物とも。明確な形も、あるのやらないのやら」
「……何や、雲を掴むような話やな…………。こう……手掛かりっぽいこととか物とか、あったりせぇへんの?」
「ははははー……。……ナッシングです」
軟体動物のような形なき形をしているそこを奥へと進みながら、岩々の影、石柱の影、張り出している岩壁の裏、その至る所に視線と意識を配りつつ、お目当てのブツ目指して歩き続けたが、二人揃って、どれだけの広さがあるのだろう……、とうんざりする程の面積を誇る空洞内を大分進んでも、ブツ処か、僅かな手応えすら感じ取ることは出来ず、やがて、彼等は足を留め、唸った。
「うーーーん……。これと言って、気になる物もないしなあ……」
「例え話ばっかりになってまうんやけど、例えば、龍脈とか探ったら、何か判ったりせぇへん?」
「龍脈……。……多分、龍脈関係当たるのが、正解っちゃ正解なんでしょうけどねえ……。ルイ先生のことだから、きっと説明してると思いますけど、此処、東日本龍脈の終点付近の筈なんですよね。要するに、日本三大龍脈の一つの真っ直中な訳で」
「そう言えばそうやったな。……ぶっとい龍脈の中を流れてる氣の機微っちゅうんか、そういうのを事細かに探れるんは、アニキか龍斗はんくらいなもんやろうしなあ……。手掛かりにはならへんな」
「……ですな。…………と、なるとー。この場所相手に何処まで通用するかは判らないけど、現代科学に頼ってみるしか、方法はないかなあ……。『連中』も、頼りは科学だけだった筈だし」
「連中?」
「あ、こっちの話です。気にしちゃ駄目です、弦月さん」
仲良く、同じ腕組みポーズを取って向き合い、このままでは埒が明かぬと言い合ってはみたものの、己の『得意分野』も通用しないか、と天を仰いだ劉をちらりと見遣った九龍は、背のバックパックを下ろし、幾つかの計器類を引き摺り出した。
「何や?」
「色々の検査キットです。ちょーっと、今は『H.A.N.T』が使えないんで、その代用品達と言いますか」
この場に甲太郎がいたら、「お前はどれだけ、あの骨董兼武器屋に無理を言ったんだ……」と呆れただろう、曰く『検査キット』の山を、すとんとしゃがみ込みながら足許の地面に並べた彼は、片っ端から電源を入れまくって、膝を抱えつつ、暫し、じー……っと、様々な検査キット達の、針だのメーターだのを凝視し続けた。