白バイやパトカーと行き会ったりしませんように! と、かなり真面目に祈りつつ、もしもスピード違反で捕まったら、確実に一発逮捕と相成る速度で以て丑三つ時の高速道路をかっ飛ばし、車を借りた松山空港のレンタカー屋の駐車場に到着した四人が身構えながらトランクを開いた時、一時は『暴れてくれた』妖刀も、すっかり『大人しく』なっていた。

勝手に震え出したり、独りでに浮き上がったり、と言った変異はもう起こらず、京一や龍麻には感じられる氣も、何処と無く穏やかだった。

故に、この分なら始発の飛行機で東京に戻れる……? と四名は一瞬のみ思ったけれども。

持ち込みそのものは、何時もの、大きな声では到底言えない『ンンーなやり方』をすればいいが、流石に旅客機の中では常に妖刀に目を配るのは不可能だし、万が一、上空一万二千メートルで妖刀などに盛大に暴れられたら大事件に発展し兼ねないし、そもそも、こんな物を抱えて公共交通機関を使うと言うのはどうなんだ? と言う感はあるし、だからと言って、四国まで亀急便──如月を呼び付けたら後が怖過ぎるし。

クエストの為のゲット物──依頼人と所属ハンターのそれぞれから仲介料がピンハネ出来るだけで、ブツそのものをロゼッタが所有出来る訳では無い代物が相手では、どんなに嘘八百を並べ立てても、妙な処がケチ臭い『農協』は、絶対にブツ運搬の為の手段など用意してくれないので、ブツブツブツブツ、本当にブツブツ相談し合った彼等は、幸い、全員車の運転は出来るのだからと、二十四時間営業だった、全国にチェーン展開しているレンタカー屋で交渉に励み、有り体に言ってしまえばそれなりの額の賄賂で話を付け、同社の新宿支店で車を返却する契約を結び直して、再び高速道路をかっ飛ばし、四国から東京まで、四名で交代しつつ運転しながら戻ると言う、中々ハードな旅に挑んだ。

自家用車で以て四国は松山から新宿の中心部を目指すと、大凡にして十時間前後の時間が必要なので、ここより先は東京都であるのを示す青看板が見えた頃には、四人の誰もがお疲れ気味の顔をしていたが、道中のほぼ全てで法定速度を大幅にぶっ千切ると言う、或る種の、これっぽっちも褒められない『悪い冒険』にも挑んだ甲斐──と言ってはいけないが──あって、夕刻前には、何とか彼んとか、彼等が乗り込んだレンタカーは新宿の街並みの中に溶け込め、西新宿の道場前で車を降りた京一と龍麻は、玄関の鍵が掛かっていたことも、大抵は在宅している京梧と龍斗の姿が見当たらなかったことも全く気に留めず、有り合わせの物でささっと食事を摂って、風呂もいい加減に済ませ、とっとと布団に潜り込み、甲太郎と九龍は、このまま直接持ち込んでしまえ、その方がきっと早い、とレンタカーを返しがてら都内某所のロゼッタ協会日本支部へ向かった。

そういう訳で。

京一と龍麻の二人が、もう当分、車なんか乗りたくない……、と呻きながら自室のベッドにダイブした頃、甲太郎と九龍は、今にも限界を超えそうな疲れや眠気と戦いつつもロゼッタの日本支部におり、訪れたそこで、或る意味では『運悪く』、天香学園を卒業して一年程が経った頃、九龍と同じくロゼッタ所属のハンターとなった、かつての同級生であり友人でもある夕薙大和と偶然の再会を果たしていた。

つい昨日、仕事で日本に戻って来たらしい夕薙は、二人との再会を心から喜んでいる風で、出来れば今直ぐにでも『実家』に寝に帰りたいが、本当に久し振りに会った友人を無碍には出来ないと、クエストの依頼品に関する手続きを済ませた二人は、只ひたすら疲労や睡魔と戦いながら、一緒に飯でも食わないか、と夕薙に誘われるまま近くの食事処に傾れ込んで、彼との食事を終え掛けた頃には、眠気が過ぎた所為で揃って妙なハイテンションに見舞われ、食事を終えて後も、大人しく『実家』に戻らず夕薙が滞在中のホテルを訪れて、三人で飲み始めて直ぐ、仲良く爆睡する、と言う愚行を犯した。

一方。

『子供達』がそのようなことをしていたとは知る由も無い京梧と龍斗は、その日の午後遅くに西新宿を出、京梧が風邪を拗らせてしまった所為で延び延びになっていた、十和田湖畔での例の『仕事』の報告のようなことをしに鳴滝の許を訪れた。

『メルヘンの世界の人』が内緒で京梧の言い付けを破ったから、あれ程酷かった彼の風邪もすっかり回復していて、日没後、用を終えた拳武館本部を後にして直ぐ、「何だかの仕事で出ている餓鬼共の戻りは遅くなるかも知れないから、何処かで飲んでから帰らないか」と京梧が言い出し、彼のやる事なす事には底無しの寛容さを誇る龍斗もすんなり誘いに頷いて、故に二人は、新宿駅からも彼等の住まいからも少々離れている、余り流行っていない代わりに煩わしさは無い、小さくて狭い飲み屋に足を運んだ。

酒に関しては、京梧は『笊』で龍斗は『枠』なので、好きなだけ放っておいてくれるその店に彼等は長居をしてしまい、道場に帰り着いた時にはかなり良い時間になっていて。多少は酔っ払っていたのだろう、京一と龍麻は戻っているのに気付いたものの、風呂や何やらを済ませて直ぐ自室に引っ込んだ直後、青森まで行ったり風邪で寝込んだりとした所為で、ちょいとばかり『ご無沙汰』だからと、京梧が龍斗を押し倒してしまい、龍斗も龍斗で、病み上がりなのに……、とか何とか言いながらも、やはり、京梧にだけ適用される底無しの寛容さを発揮して『ご無沙汰なゴニョゴニョ』に付き合ってしまい、爆睡真っ最中の子孫達のことも、帰って来ない年少二人のことも、揃ってコロリと脳裏から飛ばしてしまって。

────四国から帰って来た京一と龍麻が、ひたすら懇々と眠り続け。

子孫達と入れ替わるように出掛けた京梧と龍斗が、大分遅くに帰宅したにも拘らず『ゴニョゴニョ』に励み。

無理を押して友人との親睦を優先した為に、夕薙に盛大な迷惑を掛けると言う失態を、甲太郎と九龍が犯した夜が過ぎ。

………………翌朝。