「だが…………」
「言っても仕方ねぇだろ。連中に話し掛けられるのも、その所為で彷徨っちまうのも、お前の所為じゃない」
しょぼくれつつも、素直に抱き寄せられるに任せた龍斗に、京梧は再び、甘やかしの言葉を告げた。
龍斗が、何時まで経っても己の迷子癖と真剣に取り組もうとしないのは、きっと、彼のそういう部分に対して、最後まできちんと説教し切れない自分の甘さにも一因があるのだろうと思いつつ。
とは言え、たった今も告げた通り、龍斗の迷子癖は龍斗自身にもどうしようもないことなのだと、京梧は掛け値なしに思っているから、甘やかし過ぎている訳でもない、とも思いつつ。
「今までよりも、少しだけ気を付けてくれりゃ、それでいい。お前の迷子癖に関して俺が求めてんのは、それだけだ」
言い訳に言い訳を重ねて自分で自分を納得させた京梧は、小さな子供を慰める風に、龍斗の背を幾度か撫でた。
「……判った。これからは、気を付けるようにするから」
この手の騒ぎが起きる度、毎度毎度繰り返す、けれど決して果たされない誓いを龍斗は口にし、はにかみつつ、ほんわりと笑んだ。
「だといいがな」
口でこそ軽いからかいを吐いたけれど、そんな笑みを見せられた途端、京梧は、覚えていた酷い疲れが吹っ飛んだような気になり、我ながら安上がりだ、と微かに口許を苦く歪めた彼は、少々自棄気味に、背を摩っていた龍斗を両腕で抱き締め直した。
……惚れた弱み、と言う言葉は、彼の辞書にもあるらしかった。
「気を付けるように、努めはする」
先程同様、大人しく抱き竦められながら、伴侶のからかいを至極真面目に受け止めた龍斗は、己の言葉が嘘にならぬよう、言い回しを変えた。
「どうしたって気を付けられねぇって、自分で判ってやがるだろ」
…………惚れた弱み、との言葉を知っていても、己の今が、それそのものだと悟ってはいても、惚れた弱みは、惚れた弱みだからこそどうしようもないと、今度こそはっきりと苦笑を浮かべて、京梧は、どうして彼が苦笑を刷いたのか判らず、不思議そうに見上げてくる腕の中の龍斗の鼻先に、ちょい、と唇を掠めさせた。
「こそばゆい」
本当に、薄く掠めて行っただけのそれが酷くくすぐったかったのか、龍斗は身を捻り逃げるような素振りを見せつつも嬉しそうに笑って、だから京梧は、僅かばかり離れた躰を再び引き寄せ直し、接吻を仕掛けた。
……鼻先を掠めさせたそれも、唇へのそれも、一寸した悪戯と少しの愛情表現、それだけのつもりだったのに。
気が付いた時には、もう止められなくなっていて。
一寸した悪戯と、少しの愛情表現の続きをしているだけだ。…………と言わんばかりの顔をして、京梧は唇を、チロリと伸ばした舌先を、龍斗の首筋へと滑らせた。
「京梧」
「……何だよ」
「未だ、陽が落ち切っていない」
己を抱き締め続ける腕にも、『悪戯と愛情表現』にも応えはしたが、龍斗は、カーテンが開けられたままの窓の向こうを見ながら、無粋なことを言った。
「細けぇこと気にすんな。いいじゃねぇか、未だ明るかろうと」
龍斗の視線が流れた先を自身も目で追って、確かに明るいな、と口の中で呟きつつ、京梧は、放っておいたら更に無粋なことを言うだろう彼の口を塞ぎながら、白いシャツの中に片手を忍ばせる。
「悪いとは言っていない。一応、そう言っておくのが嗜みかと思っただけだ」
舌をも絡ませ合う長い接吻の後、名残惜しそうに京梧の頬を右の指の背で撫でて、龍斗は、しれっとそんなことを言い、
「……昔は、嗜みのたの字も知らなかったくせに、言うようになったもんだ」
頬を滑って行った指を取り上げ、爪の先を小さく食みながら、京梧は喉の奥で笑った。
「私を、『言う』ようにしたのは、お前ではないか、京梧」
────拗ねた声を出し、睨み付けてくる風になった龍斗を、京梧は、意地の悪い笑いを零し続けながら畳の上に押し倒した。
目の前に迫った、窓辺から射し込む日差しを否応なく受ける狭い部屋の畳は、真夏の暑さに晒された香りを忍ばせていて、胸に吸い込んだそれに何処となくの懐かしさを覚えつつ、二人は縺れ合うように、互い、互いの衣を剥ぎ取る。
一糸纏わぬ姿になり、京梧は、龍斗を絡め取ろうとする風に腕を伸ばして、龍斗は、声立てて笑いながら伸びてくる腕より逃げてみせようと。
……そんな風に、少々の間
…………『事』が始まると、大抵、京梧は龍斗を背中から抱き込む。
蠢く京梧の手に、龍斗が一番『手応え』を返す場所が、背の側にあるから。
吸い付くような肌を持つ躰を後ろから抱き込んで、その場所──胛
「本当に、お前はここが弱ぇな」
武道家であるのが疑わしいくらいの細い躰に廻した腕で、胸許を探りつつ、何時も通り胛に唇を落とした京梧は、そうされて直ぐさま龍斗が見せた、己の雄の部分を煽り立てる姿に気を良くし、そのまま、囁くように言った。
「……こうして抱き合う、と……お前は、口も手癖も、直ぐ、に悪くな、る……っ……」
触れられるだけで肌が攣
「仕方ねぇだろ、本当のことを言ってるだけだ」
「だから……っ。意地の悪いことをす……────。……っ……」
京梧はわざと、龍斗がより翻弄されるだろう戯れだけを続けて、徐々に、けれど確かに、龍斗の胸許で蠢かせていた手を、脚の付け根へと滑らせて行った。
熱を持ち、薄い桜色に色付いてきた肌の上を悪戯に彷徨っていた指先は、辿り着いた先──肌以上の熱を帯びながら擡げ始めていたモノを掻く風に絡め取り、やがては握り込み。
何時の間にやら、龍斗へ覆い被さる形に姿勢を変えていた京梧は、握り込んだモノをゆるりと擦り上げながら、昔も今も愛おしく思う彼の唇を、又、奪った。
光る程に濡れ、まるで何か別の生き物のように蠢く互いの唇と舌を、京梧も、龍斗も、思うままに貪り。
京梧の左手と龍斗の右手が自然と結び合った時、龍斗は自ら脚を開き、京梧の右手は、誘うように晒された、龍斗の最奥の入り口に触れた。
畳にまで滴り始めた、龍斗のモノから零れる先走りの雫を頼りにして指を忍ばせたそこは、何時も通りきつかった。