ファラオの鞭をお釈迦にされた恨みも込めて、ぶんっ! っとぶん投げられた、宝探し屋制作の素粒子爆弾は見事に爆発し、一瞬、旧校舎全体を揺るがした。
パラパラと、天井を象る巨大な岩から細かな石塊は落ち、それよりも更に細かな埃は舞い上がって。
その成果を見届け、「ばっちり!」と九龍はガッツポーズを取り、「偉い偉い」と京梧と龍斗は無闇に九龍を褒め、「ここには馬鹿しかいないのかっ!?」と、甲太郎は盛大に頭を抱えた。
「えっ……? な、何……?」
「何だ……?」
一方、龍斗がくれた細やか……な情けと、生まれ持った『高い』本能のお陰で、辛うじて素粒子爆弾の威力の及ぶ範囲より抜け出すこと敵えた龍麻と京一は、思わず身を寄せ合って四人を振り返り、
「馬鹿弟子。龍麻も」
半ば呆然と立ち尽くし、庇うように龍麻に腕を廻している京一と、縋る風に京一のシャツを掴んでいる龍麻の傍らへ、つかつか、京梧は寄ると、無言のまま、腰帯より鞘ごと抜いた刀で以て、バンバン、と二人の頭をぶっ叩いた。
「痛っ!」
「痛てぇな、何しやがる、馬鹿シショーっ!」
問答無用の一撃を喰らい、龍麻は叩かれた頭を押さえ、京一は京梧に噛み付いたが。
「あんなんが、お前達曰くの立ち合いか? あんな、みっともねぇもんでしかねぇのか? 呆れ返る程の間ぁ取った挙げ句、ちんたらちんたら、情けねえ様晒してんじゃねぇ。無様過ぎらぁな」
すっと『師匠』の顔付きになって、京梧は、不服気な視線を送ってくる二人を眼で射抜いた。
「立ち合いを、真剣勝負と定めるなら。命のやり取りでもあると弁えているなら。何時までも、だらだらとそれを続ける愚かさも、身に沁みているであろう? 時を掛けなければならぬ程、双方の力が肉薄し過ぎているのなら、それは、この世の誰よりも強く在りたいと望むお前達にとっては、修行が足りぬ、と言うことに通ずるな」
厳しい声で言い放った京梧の傍らにすすっと添って、無邪気な表情を浮かべ、無邪気に小首を傾げながら、口を噤んだ子孫達を眺め、龍斗は事も無げに言い退けた。
「それ、は、まあ……、その……」
「確かに、何時まで経っても、ひーちゃんと決着付かねえのは……」
京梧には、無様、と切って捨てられ、龍斗には耳に痛いことを言われ、あー……、と龍麻も京一も、彼等より視線を外す。
「…………龍麻。見ているといい」
ばつが悪そうに有らぬ方へ瞳を逃してしまった龍麻と京一を見比べ、僅か考え込み。何を思ったのか龍斗は、徐に京一の腕を掴んで、ぽい、と素粒子爆弾が地を抉った辺りへ放り投げるようにし、見ていろ、と龍麻へ言い置くと、流れるように身を返した。
龍斗vs京一
龍斗サンは、一体どういうつもりで……? と悩んだものの、己を振り返った龍斗が、ふぅわりと腕を振って構えを取り出したのを見て。
「おいおい……。マジかよっ」
刀の柄を握り直した京一は、ほんの一瞬、脳裏に過った思惑に従い、龍麻との立ち合いの始めに使った、陽炎細雪を打つこと選んだ。
同じ陽の古武道を操る、『力』の質も氣の質も、戦い方も殆ど龍麻と同一な彼が、どう出るか知りたかった。
「陽炎、細雪っ!」
故に、トン……、と幾度かバックステップを踏みつつ、それまで以上に龍斗との距離を取ったそこで踏ん張り、彼は大刀を翻し、
「大鳳」
幕末の頃は『大鳳』と言う名だった、が、今の世では秘拳・鳳凰と言う呼び名の奥義を龍斗は放った。
要するに、先程龍麻が放ったそれと同一の技を、彼はわざわざ使ってみせた。
京一の思惑に乗って、あの瞬間を意図的に繰り返すように。
……けれど。
結果は違った。
龍麻とやり合った時は、秘拳・鳳凰の氣を氷の粒と変えて砕いた陽炎細雪を、あ、と言う間もなく龍斗の氣塊は飲み込み、京一の眼前へと迫った。
氣の力加減も破壊力も、龍麻の放ったそれに等しいとしか、京一にも、端で見ていた龍麻にも思えなかったのに、『大鳳』は、陽炎細雪を消し去って尚、威力を損なわず。
「嘘だろっ!?」
その場より離れることで、京一は『大鳳』より逃れた。
打ち消すことも、弾き返すことも叶わぬまま。
「螺旋掌」
飛び退き、思わず歯噛みした彼へ、龍斗は歩も進めず、間を置かずに技を放ち、
「ちょっ……──」
「龍麻?」
螺旋掌に吹き飛ばされた京一を見もせず、龍麻へと振り返って、にこっと彼は笑み掛ける。
どうだ? と言わんばかりに。
「……………………精進します……」
「こ、甲ちゃん…………」
「世の中、上には上がいるな、九ちゃん……」
にこにこと、春風のように笑みつつ問うてきた龍斗に、頬引き攣らせながら龍麻はガクリと頭を下げ、見事に吹っ飛んで行った京一を目で追って、見学を決め込んでいた九龍と甲太郎は低く唸った。
「痛ってーー…………。容赦無さ過ぎだぜ、龍斗サン……」
そこへ、這々の態で京一が戻って来て。
「今度は、てめぇが見てる番だな、馬鹿弟子」
「……え。京梧さん、本気ですか……?」
「戯れ言、言ってどうする」
打ち拉がれた龍麻の襟首引っ掴んで、がらん……、と広がる前方へと京梧は押し出した。